約9分で読める

一次資料の最終確認 2026年10月27日

NOISE報道の見出し

国民年金1.9%引き上げ 26年度、実質は目減り共同通信(琉球新報)

SIGNAL答え

2026年度の年金(基礎年金)は、前の年の物価3.2%に対して1.9%の引き上げだった。差の1.3ポイントのうち、年金の伸びを抑える決まり(マクロ経済スライド)の分は0.2で、残る1.1は、改定に使う給料の伸びに、2〜4年度前の給料が物価の上がりに追いつかなかった分が入ったためだ。だから年金が物価に近づくかは、まず給料が物価を上回る年が続くかで決まり、それが年金に届くのは2〜4年後になる。決まりが続く間は、68歳以上の人の年金では、その分の差が残る。

根拠を見る出典訂正・更新

厚生労働省は2026年1月23日、2026年度(4月から)の国民年金(基礎年金)を1.9%引き上げると発表した。前の年に当たる2025年(1〜12月)の物価は3.2%上がった。共同通信は「26年度、実質は目減り」と配信した(報道の見出し)。年金はなぜ物価ほど上がらないのか。

物価との差1.3ポイントは、編集部の計算では2つに分けられる。1つは、年金の伸びを抑える決まり(マクロ経済スライド)で引いた分。もう1つは、改定に使う給料の伸びが物価より低かった分(以下、給料の分)だ。共同通信は本文で「支給額を抑制する仕組みを適用するため」と、決まりを理由に挙げる。ただ、2026年度の差では給料の分のほうが大きい。⁠

結論から言えば、2026年度に決まりで引いた分は0.2ポイントで、残る1.1ポイントが給料の分だ。この回では、年金額の決まり方と差の内訳、年金がいつ物価に近づくかを確かめる。

年金の改定に使う給料の伸びには、2〜4年度前の実質賃金が反映される

年金額は毎年度、前の年の物価と、改定に使う給料の伸びをもとに改定される。給料の伸びが物価の伸びを上回る年は、67歳以下の人は給料の伸びに、68歳以上の人は物価に合わせる。物価の伸びが給料の伸びを上回る年は、どちらも給料の伸びに合わせる。2026年度は、物価の伸びが給料の伸びを上回った。

改定に使う給料の伸びは、物価の上がりを差し引いた給料の伸び()から出す。2〜4年度前の3年度分の実質賃金の平均に、前の年の物価の伸びと、税や保険料の割合の変化の分を足す。2026年度は次の足し算になる。

−1.1+3.2+0.0=2.1%

−1.1%は2022〜2024年度の実質賃金の平均で、3.2%は2025年の物価の伸びだ。0.0%は税や保険料の割合の変化の分になる。物価を差し引いた給料の伸びに、物価の伸びを足し戻して、物価も含めた給料の伸びにしている。

改定に使う給料の伸び2.1%は、2〜4年度前の実質賃金の平均がマイナスだった分、前の年の物価3.2%より低くなった。

年金の改定に使う実質賃金は、厚生労働省が年金の改定のために公表する数字だ。ニュースでよく見る毎月勤労統計の実質賃金や、第1回で見た、働く人全体の給料の総額で買える量とは物差しが違う。

同じ日に発表された特別児童扶養手当などは、法律で物価に合わせて改定すると決まっている。2026年度は前の年の物価どおり3.2%上がった。年金の改定には物価と給料の両方を使うため、物価どおりにならない年がある。

物価は3.2%上がったのに、なぜ国民年金は1.9%なのか 差の大半は数年前の給料の伸び不足
写真:掬茶/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

物価との差1.3ポイントのうち、1.1ポイントは給料の分だ

編集部の計算では、2026年度の差は次の引き算で2つに分けられる。

給料の分:3.2−2.1=1.1ポイント / 年金の改定率:2.1−0.2=1.9%⁠

マクロ経済スライドは、給料や物価から出した改定率から、さらに差し引いて年金額の伸びを抑える決まりだ。引く分は、年金を支える働く人の数の増減と平均余命の伸びから決まる。

2025年度の改定では、働く人の数が2021〜2023年度の平均で0.1%減っていて、引く分は0.4ポイントだった。2026年度は2022〜2024年度の平均で0.1%増えていたため、引く分は0.2ポイントになった。

年金の改定(年度) 前の年の物価 改定に使う給料の伸び マクロ経済スライド 改定率(基礎年金) 物価との差(うち給料の分/うちスライド)
2024年度(2024年1月19日発表) 3.2%(2023年) 3.1% ▲0.4% 2.7% 0.5(0.1/0.4)
2025年度(2025年1月24日発表) 2.7%(2024年) 2.3% ▲0.4% 1.9% 0.8(0.4/0.4)
2026年度(2026年1月23日発表) 3.2%(2025年) 2.1% ▲0.2% 1.9% 1.3(1.1/0.2)

最後の列は編集部が引き算した数字で、単位はポイント。

給料の分は、0.1、0.4、1.1ポイントと年々大きくなった。物価が高くなった2022年度から、給料が物価の上がりに追いつかなかった分が、2〜4年遅れて年金の改定に反映された。2024年度は差0.5ポイントのうち0.4ポイント、2025年度は差0.8ポイントのうち0.4ポイントが、決まりで引いた分だった。2026年度には、給料の分が物価との差の大半を占めた。

満額の国民年金は、2025年度の月69,308円から2026年度は月70,608円になり、月1,300円増えた。編集部の計算では、前の年の物価どおりに上がっていれば月約71,526円で、実際との差は月約918円になる(実際の年金額は年額で端数を処理するため、この差額は目安)。

連載の図のうち「国の税収と支出」の層で、年金の改定を示す矢印⑤。2026年度の年金は物価3.2%に対して1.9%の引き上げ。差1.3ポイントのうち、給料の分が1.1、マクロ経済スライドの分が0.2
連載の図のうち「国の税収と支出」の層で、年金の改定を示す矢印⑤。2026年度の年金は物価3.2%に対して1.9%の引き上げ。差1.3ポイントのうち、給料の分が1.1、マクロ経済スライドの分が0.2

2〜4年度前の実質賃金の平均がプラスになる年から、年金と物価の差は縮む

2026年度の給料の伸びは、2028〜2030年度の年金の改定に反映される。毎月勤労統計の実質賃金は、2026年8月まで8か月続けて前年を上回った(8月は前年同月比1.5%増)。ただ、先に見たとおり、この数字は年金の改定に使う数字とは物差しが違い、改定には2〜4年度前の3年度分の平均を使うので、今の給料の伸びがそのまま年金の改定に反映されるわけではない。

編集部の読みでは、改定に使う2〜4年度前の実質賃金の平均がプラスになる年には、物価に合わせて改定される68歳以上の人の年金と物価の差が縮み、残る差は多くても決まりで引く分になる。

決まりが続く間は、68歳以上の人の年金では、決まりで引く分だけ差が残る。67歳以下の人は給料の伸びに合わせて改定されるので、給料の伸びが物価を大きく上回る年は、年金の伸びが物価を上回ることもある。2024〜2026年度に引かれた分は、年0.2〜0.4ポイントだった。

決まりが続く期間は経済の見通しで変わり、この資料では決まらない

年金を所管する厚生労働省の見通しでは、基礎年金の伸びを抑える決まりは、慎重な見通しで2057年度まで、成長が続く見通しなら2037年度まで続く。

基礎年金の水準は、夫婦2人の基礎年金が、現役の男性の手取りの平均に占める割合で見る。2024年度の36.2%から、慎重な見通しでは2057年度に25.5%、成長が続く見通しでは2037年度に32.6%になる。

この連載で比べている()と、エコノミストの会田卓司氏は、どちらも年金の先行きは経済に左右されると見ている。年金制度が続くことも、どちらも書いている。

今の制度のままなら、慎重な見通しでは決まりが2057年度まで続く。この見通しにどう応えるかで、財政審は制度の手直しと財源を挙げ、会田氏は経済の成長を挙げる。

財政審の答えは、制度の手直しと財源の確保だ。財政審は2024年11月29日の建議で、年金の伸びを抑える期間が長引き、基礎年金の水準が下がっていく点を課題に挙げた。そのうえで、決まりを早く終える案と、それで増える国の負担をまかなう安定した財源を、あわせて検討すべきだとする。将来世代に負担を回さないためだ。⁠

建議は、2004年の改正のときは決まりが2023年度に終わる見込みだったが、デフレの下で決まりの発動が遅れた、とも書く。この建議は2026年度の改定より前に出たもので、最近の物価や給料の上がりで2057年度までという見通しがどう変わるかにも触れていない。

会田氏が挙げるのは、経済を成長させることだ。共著『何が日本経済を壊したのか』の第15講義では、年金の見通しは、きわめて悲観的なものだと見られる、と書く。に出した2026年6月30日の資料では、成長が続く見通し(資料では実質の1%のケース)なら、100年後の積立金は年間の支払いの20倍超になり、年金制度は強靭だとした。一方で本には、年金財政の放漫な運営は許されず、一定の規律は不可欠だとも書く。

この回で確かめた2つの資料(成長戦略会議の資料と第15講義)では、会田氏はマクロ経済スライドを名指しして、続けるべきか、何年続くかを書いていない。2026年度の改定が物価より低かったことにも触れていない。

連載で比べているもう1人のエコノミスト、永濱利廣氏は、2024年6月のレポート(「老後資金4000万円必要」に対する誤解)では、年金の改定の決まりには触れていない。

厚生労働省の年金部会は、慎重な見通しを中心に議論した。足元の経済はこれまでと違うという指摘も記録したが、基礎年金の決まりを早く終える案では意見がまとまらなかった。

決まりが続く期間は、給料の伸びが物価を上回り続けるかで変わり、年金を支える働く人の数や積立金の運用利回りにも左右される。

この資料では、決まりが何年続くかは決まらない(この回で見た2つの見通しでは2037年度から2057年度まで幅がある)。

年金の改定には、物価は1年遅れ、給料は2〜4年遅れで反映される。次の回は、日銀が金利を上げたとき、預金の金利や住宅ローン、国の借金の利払いに影響が出る時期が、なぜそれぞれ違うのかを見る。

調べ方

厚生労働省が2024年1月19日、2025年1月24日、2026年1月23日に発表した年金額改定の参考指標を比べた。前の年の物価、改定に使う給料の伸び、マクロ経済スライドの率、改定率を並べ、物価との差を給料の分と決まりの分に分けた。

差は単純な引き算で、掛け算の誤差は無視した。決まりが続く期間は、厚生労働省の2024年の財政検証の概要と年金部会の資料、財政審の建議で確かめた。

出典

一次資料10件・報道2件・推計1件

一次資料のライブラリ 「物価と家計」の資料をまとめて見る →

根拠を見る(照合した記述 7か所)公開前の事実確認では、最初の照合(23か所)のうち7か所で、出典と合わない所や言い過ぎが見つかり、公開までに直した。

記事の事実の記述と、出典の該当箇所を並べた。事実確認の記録(10月27日まで)から作っている。

  1. 「厚生労働省は2026年1月23日、2026年度(4月から)の国民年金(基礎年金)を1.9%引き上げると発表した。」

    確認済み厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(2026年1月23日)該当箇所:1枚目の本文日本年金機構「令和8年4月分からの年金額は前年度からどのように改定されたのですか。」該当箇所:Q&A の回答の1段目

  2. 「共同通信は本文で「支給額を抑制する仕組みを適用するため」と、決まりを理由に挙げる。」

    未確認琉球新報(共同通信配信)「国民年金1・9%引き上げ 26年度、実質は目減り」(2026年1月23日)該当箇所:本文の1段目(OANDA の配信ページ)共同通信「国民年金1・9%引き上げ」(2026年1月23日。OANDA Lab の配信ページ)

  3. 構造図「年金の伸びを抑える決まり → さらに0.2ポイントを引く → 2026年度の基礎年金の改定率は1.9%」

    確認済み厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(2026年1月23日)該当箇所:3枚目「令和8年度のマクロ経済スライドによる調整」

  4. 「給料の分:3.2−2.1=1.1ポイント / 年金の改定率:2.1−0.2=1.9%」

    確認済み厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(2026年1月23日)該当箇所:3枚目「参考指標」と下の本文

  5. 「財政審の答えは、制度の手直しと財源の確保だ。」

    確認済み財政制度等審議会「令和7年度予算の編成等に関する建議」(2024年11月29日)該当箇所:印刷p.58〜59「(5)年金」①

  6. NEXT SIGNAL「2027年度の年金額は、例年どおりなら、総務省が2026年平均の消費者物価指数を出す2027年1月22日(総務省の公表予定)に…」

    暫定総務省 統計局「消費者物価指数」の公表予定(e-Stat)該当箇所:「2026年平均(全国)」の行厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(2026年1月23日)該当箇所:1枚目の頭厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」(2025年1月24日)該当箇所:1枚目の頭厚生労働省「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」(2024年1月19日)該当箇所:1枚目の頭

  7. 「琉球新報(共同通信配信)「国民年金1・9%引き上げ 26年度、実質は目減り」(2026年1月23日)」

    未確認琉球新報(共同通信配信)「国民年金1・9%引き上げ 26年度、実質は目減り」(2026年1月23日)該当箇所:見出し・公開日時

出典の該当箇所まで示せる記述だけを載せている。誤りに気づいたらcontact@instrsignal.com へ。

なぜそう言える?

確認済み厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(2026年1月23日)該当箇所:3枚目「参考指標」と下の本文出典の一覧へ

なぜそう言える?

確認済み財政制度等審議会「令和7年度予算の編成等に関する建議」(2024年11月29日)該当箇所:印刷p.58〜59「(5)年金」①出典の一覧へ

財政制度等審議会

財務省に置かれた審議会。財務大臣の諮問に応じて、国の予算・決算・会計の制度などの重要事項を調べて話し合い、財務大臣に意見を述べる。

財務省設置法第6条・第7条第1項

日本成長戦略会議

内閣の日本成長戦略本部の下に置かれた会議。首相が議長、官房長官と担当大臣が副議長で、関係大臣と有識者で構成する。2025年11月4日の閣議で、本部の設置とともに説明された。

首相官邸「閣議及び閣僚懇談会議事録」(2025年11月4日、城内国務大臣の発言)

経済成長率

GDP(国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の総額)が、前年や前四半期と比べてどれだけ増えたか減ったかの割合。物価の動きを含む名目と、除いた実質がある。

共同通信ニュース用語解説「GDP」(コトバンク、2026年10月17日更新)

実質賃金

名目賃金指数(現金給与総額)を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で割って出す、物価の動きの影響を取り除いた賃金の指数。厚生労働省の毎月勤労統計調査が毎月出す。

厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年8月分結果速報」概況(印刷16ページ)

財政審

財政制度等審議会の略。財務省に置かれた審議会。財務大臣の諮問に応じて、国の予算・決算・会計の制度などの重要事項を調べて話し合い、財務大臣に意見を述べる。

財務省設置法第6条・第7条第1項

記事番号 2026-10-27-05 誤りの指摘と訂正の記録

Google 検索で Instr Signal を優先する →Google 検索の「トップニュース」に、このサイトの記事が出やすくなります。