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NOISEよくある受け取り方

EVシフトに​失敗したから、​ドイツ車は苦しい

SIGNAL答え

EUのEVだけの​ルールで​得を​したのは​電池を​握る​中国企業で、​欧州勢に​利益が​ほとんど​残らない。

STRUCTUREこの記事の構造

ルール変更 ≠ ​勝利

供給網で負ける → ​市場を奪われる

なぜ欧州の​自動車産業は​「自ら作ったルール」⁠で​行き詰まったのか

日本ではあまり大きく報じられないが、欧州、特にドイツの自動車産業はいま、歴史的な不況と構造的な混乱のただ中にある。

フォルクスワーゲン(VW)はドイツ国内の工場閉鎖や大規模な人員削減に追い込まれた。一度は決めた「2035年ガソリン車禁止」のルールを急遽緩め、エンジンの開発と生産を再開し始めた。

「環境先進国」としてEV(電気自動車)への転換を引っ張ってきた欧州が、なぜここまで追い詰められたのか。

背景には、「負けそうになるとルールを変える」という欧州の常套手段が、裏目に出たという構造がある。

0. ​負けそうになると​「ゲームのルール」⁠を​変える

欧州(EU)には、昔から一つの行動パターンがある。「技術や製品の正面勝負で勝てなくなると、政治力で環境や安全といった『新しいルール(基準)』を作り、盤面ごとひっくり返す」という手法だ。

  • デジタル分野: 米国の大手IT企業に勝てなくなると、厳しい個人情報保護のルール(GDPR)や巨大IT規制法を作り、巨額の制裁金を科した
  • 環境分野: 自国の製造業がコストで勝てなくなると、「炭素税(CBAM)」を作り、新興国からの輸入品に事実上の関税をかけた

今回のEV転換も、同じ構図だった。自分たちが有利になるよう、「審判の立場」を使ってゴールの位置を動かしたのだ。

フォルクスワーゲンの工場の発電所(ドイツ・ヴォルフスブルク)
写真:Dietmar Rabich/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

1. ​「日本外し」⁠のための​ルール変更

欧州が「2035年までにガソリン車とハイブリッド車(HEV)を全廃し、すべてEVにする」という極端なルールを作った真の標的は、日本(トヨタなど)だった。

エンジンとモーターを精密に制御するハイブリッド技術で、日本勢は圧倒的な特許網と低コストの量産体制を築いていた。正面から戦っても勝てないと判断した欧州は、ルールそのものを書き換える道を選んだ。

「これからはEVの時代だ」と宣言し、日本が得意とするエンジンやハイブリッドの技術を、市場から締め出そうとした。

2. ​致命的な​計算違い——​現れたのは​「中国」⁠だった

しかし、このルール変更には致命的な計算違いがあった。

「EV以外は禁止」という厳しいルールを作った結果、その扉から流れ込んできたのは欧州車ではなく、安くて質の高いEVとバッテリーを大量生産できる中国メーカーだった。

EVの製造コストの約4割を占めるのは「バッテリー(車載電池)」だ。中国(CATLやBYDなど)は、原材料の精錬から電池の量産までを国家規模で押さえ、欧州企業がとても太刀打ちできない低コストの構造をすでに完成させていた。

日本のハイブリッド車を追い出すためにルールを厳しくした結果、いちばん得をしたのはバッテリーの心臓部を握る中国企業だったという、皮肉な結果になった。

3. ​欧州メーカーを​襲った​「3つの自滅の仕組み」

自ら作ったルールで逃げ道を失った欧州の自動車メーカーは、自滅の道をたどる。

① ソフトウェア開発のつまずき
EVの要である車載ソフトウェアの開発が相次いで遅れ、テスラや中国勢のような魅力ある商品を作れなかった。

② バッテリーの下請け化
自前で電池を作れないため、中国から高い値で買わざるを得ず、車を売っても利益がほとんど残らない構造に陥った。

③ 巨額の二重投資
EV専用に作った工場は稼働率が上がらず、赤字が積み上がった。焦ってエンジンの再開発を始めたため、「焦げ付いたEV投資」と「エンジンの再開発費」という二重の負担が経営を強く圧迫している。

4. ​この構造から​見える結論

今回の欧州の失速は、ビジネスの重要な教訓を示している。

政治力で自分に都合のよいルールに変えても、現場の製品開発(ハードウェアや供給網)で負けていれば、そのルールの下でいちばん準備ができていた相手に市場を奪われるだけで終わる。

「ルール変更で相手をはめようとした結果、より強い相手を呼び込んで自滅した」——これが、いまの欧州自動車産業が陥った構造の実相だ。

(下)では、「欧州が自ら墓穴を掘っていることに、落ちるまで気づけなかった理由」を書く。

出典

策士、策に溺れる…ドイツ自動車産業の大自爆

  1. ドイツ自動車産業の自滅(上)自ら作ったルールに追い詰められた(この記事)
  2. ドイツ自動車産業の​自滅⁠(下)​落ちるまで​気づけなかった​3つの理由