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NOISE報道の見出し
SIGNAL答え
トランプ政権の
論点ごとの判定
「円安は
経済学者の
- ①条件つき関税で
日本の輸出が 筋は減り、 円が安くなる 通るが、 大きさは 見分けられない - ②条件つき5500億ドルの
対米投資は 民間の銀行が円売りになる 円を売る分 - ③裏が取れた経常黒字は年30兆円ほど
- ④裏が取れた10%の円安で
物価が 10%上がるわけではない - 条件つき今も、
円安の物価への 推計が影響は小さい 割れる - ⑤根拠が足りない今の円安の
主な原因は、 トランプ氏
経済学者で
一次資料で確かめると、筋が通るのは「トランプ政権の政策は、円安の方向に働く要因の一つになりうる」まで。「張本人」、つまり今の円安の主な原因とまでは、公開されたデータからは言えない。関税を発表した直後に円はむしろ高くなり、円安が深まった2025年半ば以降は、ドルではなく円だけが安くなっているからだ。
原田氏の主張を5つの命題に分け、それぞれを一次資料で確かめた。
STRUCTUREこの記事の構造
-
主張
円安は
トランプ氏のせい -
方向
関税と対米投資は
円安の方向に働きうる -
大きさ
関税の直後は
円高、 融資の契約は 枠の1%余り -
結論
要因の一つには
なりうるが、 主な原因とは言えない
原田氏の言い分
原田氏の論は、次のように読める。為替は円とドルの需要と供給で決まる。米国は日本からの輸入に関税をかけ、5500億ドルの対米投資を求めた。教科書どおりなら、どちらも円を売る方向に働く。その米国が、9月22日の日米首脳会談で、円安で米国の貿易が厳しいと伝えた。原田氏は、この3つを同時に求めるのは「無理難題」だと書く。
首脳会談のやり取りは、首相官邸の9月25日の会見記録で確かめられる。高市首相は、トランプ氏から「円安によって米国の貿易が厳しい」という話があり、「一般論として『円の過小評価』というのは問題」と答えたと述べている。
国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、モーリス・オブストフェルド氏も8月、米国の日本への通商措置を円安の「要因の一つ」と書いている。原田氏の指摘は、ひとりだけの見方ではない。
「せい」には2つの読み方がある。見落とされている要因の一つ、という読み方なら、ここまでで裏は取れる。今の円安を招いた主な原因、という読み方なら、さらに大きさを確かめる必要がある。題名の「張本人」は後の読み方なので、以下では両方を確かめた。

①【条件つき】関税で日本の輸出が減り、 円が安くなる
関税で輸出が減れば、日本の製品を買うための円の需要が減る。この理屈は経済学の教科書どおりだ。実際、2025年の日本の対米輸出は前年より4.1%減った(財務省の貿易統計)。原田氏の書いた関税率(一般の品目12.5%、自動車15%)も、今の率と合う。
ただ、為替を動かすのは輸出だけではない。2025年4月2日に米国が相互関税を発表した後、ドル円は1ドル149円台から4月21日には140円台まで円高に進んだ。世界の投資家が不安になると、比較的安全とみられる円が買われやすい。日銀は「投資家のリスク回避姿勢の強まり」などを挙げ、IMFも関税の衝撃が一時的に安全資産として円を押し上げたと書いている。2025年7月22日に日米合意が発表された前後も、ドル円はほぼ動いていない。
日本全体の貿易収支の赤字は、2025年に前年の約2.7兆円から約0.6兆円に縮んだ(国際収支統計)。ただ、IMFは、原油やガスの値下がりで輸入が減ったことが、関税の後の輸出額の減少を上回ったとしている。国全体の数字からは、関税で減った円の需要の大きさを見分けられない。
②【条件つき】5500億ドルの対米投資は円売りになる
原田氏は、5500億ドル(1ドル160円で88兆円)を用意するには円をドルに換える必要があり、大きな円売りになると書く。ドルで借りてドルで投資すれば円安圧力にならない、という反論も原田氏は取り上げ、日本企業には88兆円分の借り入れを増やせるほどの担保は無いとして「金額が大きすぎるので、それは無理だと私は思う」と書いている。
ただ、政府が用意したのは、企業が担保を出して借りる形とは別の道だ。政府系の国際協力銀行(JBIC)は、国が持っているドルを借りたり(融資額の原則5割まで)、国の保証つきでドルの債券を出したりして、ドルを用意する。どちらも市場で円を売らずに済む方法で、財務省は国のドルを貸す目的を「為替市場への影響を抑制すること」と書いている。円を通貨スワップでドルに替える方法も、同じ財務省の資料に挙がっている。
対米投資の動きは、まだ小さい。米大統領が選んだ案件の事業規模は、これまでの2回の発表で合わせて見込みで最大約1,090億ドル、5500億ドルの約2割にあたる。そのうちJBICが結んだ融資の契約は5件で、民間の銀行と合わせた融資の上限は約69億ドル、5500億ドルの1%余りにとどまる(JBICの発表から計算)。原田氏の「年に44兆円」は、2029年1月19日の期限までに全額を出し切った場合の計算で、今の円安の原因になるほどの規模の契約は、まだ結ばれていない。
一方で、原田氏の心配が当たりうる部分も残る。財務省は、JBICと民間の銀行の融資の割合をおよそ1対2と想定している。民間の銀行がドルをどう用意するかについて、赤澤経済産業相は国会で「民間金融機関の資金調達手法の詳細は把握はしておりません」と答えた。民間の銀行が円を売ってドルを買えば、原田氏の理屈どおり円安の方向に働く。その量を示した推計は、公開されていない。
③【裏が取れた】経常黒字は年30兆円ほど
経常黒字は、輸出入や海外からの利子・配当などで、日本が海外から受け取ったお金が支払ったお金を上回った分だ。原田氏の「日本の経常収支黒字は年に30兆円程度」は、財務省の国際収支統計で2024年が約29.3兆円、2025年が約32.2兆円で、合っている。
ただし、黒字の3分の1ほど(2025年は約11.2兆円)は、海外の子会社が稼いだ利益をそのまま海外で投資した分で、もともと円には換わらない。このお金を対米投資に回すなら、円を売る必要は無い。経常黒字が30兆円しかないので、44兆円を出すには円安で黒字を増やす必要がある、という原田氏の計算は、すべてを新たに円から換える場合の話だ。
④【裏が取れた】10%の円安で物価が10%上がるわけではない
原田氏は、内閣府の研究などによると「円レートが1%下がっても消費者物価指数は0.02%しか上がらない」と書く。「10%円安になったからと言って消費者物価が10%上がる訳ではない」という点は、確かめたどの推計とも合う。明治学院大学の佐々木百合教授(2025年)も、自身らの先行研究で1%の円安による物価の押し上げは最大でも約0.02%だったと紹介し、2024年までのデータの分析でも影響は小さいとした。ただ、2022年以降を含む時期は物価の反応が大きいとも書いている。
ただ、原田氏の比べ方には弱い所がある。原田氏は、「最近は、この係数が大きくなっているという説」への反論として、野村総合研究所の木内登英氏の「10%の円安で物価は0.27%上昇」を挙げ、「1%で0.02%と大して変わらない」とする。ところが木内氏の0.27%は、原田氏が出典に挙げたのと同じ内閣府の研究者のモデル(2022年版、原則2020年までのデータで作成)からの引用だと、木内氏自身が書いている。同じモデルの数字どうしを比べても、影響が大きくなったかどうかは確かめられない。日銀の展望レポート(2026年7月)は、為替の変動が国内の物価に与える影響が強まっているとしている。今の影響がどれだけかは、推計によって大きく違う。
暮らしへの影響は、平均の物価だけでは測れない。日銀は、円安は輸入物価の上昇などを通じて「家計の実質所得を下押しする」と書いている。内閣府は、食料の割合が大きい所得の低い世帯や高齢の世帯ほど、直面する物価の上昇率が高いと分析している。ただ、その中で円安の分がどれだけかを世帯ごとに出した資料は見当たらない。
原田氏は「円安がコメ価格高騰の理由であるはずがない」とも書く。日銀は、天候による供給の減少と需要の増加を値上がりの直接の起点に挙げており、円安が主な原因ではないという点は資料と合う。ただ日銀は、肥料や燃料などの費用を値段に回せていなかったことも背景に挙げている。
⑤【根拠が足りない】今の円安の主な原因は、 トランプ氏
円安が深まったのは、2025年の半ば以降だ。2025年6月末から2026年9月25日までに、ドルは円に対して9.0%上がった。同じ期間、ユーロに対しては3.2%、主な通貨をまとめたドルの指数では0.8%しか上がっていない(米連邦準備制度のデータから計算)。ドルが強くなったのではなく、円だけが安くなった。ドル全体を押し上げる米国の金利の動きなどでは、この形は説明しにくい。日本に向けた関税や投資の要求なら円だけに効きうるが、②で見たとおり、対米投資で結ばれた融資の契約はまだ枠の1%余りだ。
IMFによると、2025年半ばから同機関の分析の時点(2026年初め)まで、日米の10年物国債の利回りの差はむしろ1%以上縮んでいた。それでも円は安くなった。IMFは、2025年半ば以降の円の動きのかなりの部分は、金利差やリスク回避、原油の値段では説明できないとし、市場が日本の財政のリスクを強く意識するようになった時期と重なると書いている。2026年に入ってからは、日銀が米国の利上げ観測を円安の理由に挙げ、米財務省も原油の値段などが円に影響したとみている。
この時期は、5500億ドルの対米投資の合意(2025年7月発表、9月署名)とも重なる。確かめた日銀、IMF、内閣府、米財務省、日本の財務省の資料は、いずれも米国の関税や5500億ドルの投資を円安の主な原因に挙げていない。
しかも、日本の財務省は米国東部時間の2026年7月31日に、米国財務省と協調して円買い介入をしている(財務大臣談話)。米国財務省も円安を止めたい側にいるという点では、原田氏の言う「無理難題」はさらにはっきりする。ただ、それは今の円安の主な原因が米国だという根拠にはならない。
裏が取れたのは、ここまで
- 裏が取れた:経常黒字は年30兆円ほど、という数字。10%の円安で物価が10%上がるわけではない、という点
- 条件つき:米国の関税と対米投資の要求は、円安の方向に働く要因になりうる。特に、民間の銀行が円を売ってドルを用意する分は円安の方向に働くが、その量は公開されていない。円安を問題にしながら円安の方向に働く政策を求めるのは、米国の要求の中の矛盾だ
- 根拠が足りない:今の円安の主な原因がトランプ氏だ、という結論。関税の発表の直後は円高で、対米投資の融資の契約は枠の1%余りで、円安が深まった時期はドルではなく円だけが安い
原田氏の論で最も強いのは、米国の要求どうしが矛盾しているという指摘だ。日本の覚書には、韓国の合意にある「年200億ドルまで」の上限のような、為替についての歯止めが書かれていない。民間の銀行の分が大きくなれば、原田氏の心配は現実になりうる。
なお、原田氏の記事の後半にある、米国にどう向き合うかの外交の提言は、今回の検証の対象に入れていない。
注
- 注1関税率は、日本貿易振興機構の2026年8月26日時点の整理で、一般の品目が元の関税と合わせて12.5%(2026年7月24日から。元の関税が12.5%以上の品目はその率だけ)、自動車・同部品が15%(2025年9月16日から)。一般の品目は2025年8月の15%から下がってきた。
- 注2ドル円は米連邦準備制度のニューヨーク正午の値。2025年4月2日149.98円、4月21日140.81円。2025年7月22日146.36円、7月23日146.55円。2025年6月30日144.17円、2026年9月25日157.18円。
- 注3原田氏が出典に挙げた内閣府のモデル(2022年版)が示すのは、消費者物価指数ではなく、GDP統計の個人消費の物価(民間消費デフレータ)。10%の円安で1年目0.15%、2年目0.16%、3年目0.23%。資料は「研究者個人の責任」で書かれ、内閣府の見解ではないと断っている。
- 注4財務省の月ごとの公表では、2026年7月30日から8月26日までの円買い介入は計15兆3,993億円。
出典
- 原田泰
「高市首相の 報道せいでも、 日銀の せいでもない… 経済学者が 『円安を 招いた 張本人』と 指摘する 政治家の名前」 プレジデントオンライン (2026年10月5日) - 首相官邸
「日米首脳会談等についての 一次資料会見」 (2026年9月25日) - Maurice Obstfeld,
PIIE 推計(2026年8月11日) - 財務省
「令和7年分貿易統計 一次資料(速報)の概要」 - FRED
「Japanese 一次資料Yen to U.S. Dollar Spot Exchange Rate (DEXJPUS)」 - FRED
「U.S. 一次資料Dollars to Euro Spot Exchange Rate (DEXUSEU)」 - FRED
「Nominal 一次資料Broad U.S. Dollar Index (DTWEXBGS)」 - 日本銀行
「経済・物価情勢の 一次資料展望」 2025年4月 - IMF
「Japan: 一次資料2026 Article IV Consultation」 Country Report No. 26/75 - 内閣官房
「日本国政府及び 一次資料アメリカ合衆国政府の 戦略的投資に関する 了解覚書」 (仮訳、 2025年9月4日) - 財務省
理財局 一次資料「財政制度等審議会 財政投融資分科会 説明資料 (株式会社国際協力銀行)」 (2025年12月5日) - 財務省
「日米戦略的投資イニシアティブ 一次資料第一陣の案件」 (2026年2月18日) - ホワイトハウス「Fact Sheet:
President 一次資料Donald J. Trump Strengthens U.S.‑Japan Alliance for the Benefit of All Americans」 (2026年3月) - 国際協力銀行
プレスリリース 一次資料(2026年5月1日) - 国際協力銀行
プレスリリース 一次資料(2026年5月1日) - 国際協力銀行
プレスリリース 一次資料(2026年5月1日) - 国際協力銀行
プレスリリース 一次資料(2026年8月14日) - 国際協力銀行
プレスリリース 一次資料(2026年8月14日) - 国際協力銀行
プレスリリース 一次資料(2026年8月14日) - 国会会議録
(参議院 一次資料経済産業委員会、 2026年5月26日) - 財務省
「国際収支状況」総括表 一次資料 - 財務省
「国際収支状況」 一次資料第一次所得収支 - 内閣府
経済社会総合研究所 一次資料「短期日本経済マクロ計量モデル (2022年版)の 構造と 乗数分析」 (2022年12月) - 佐々木百合
「為替相場の 推計変動が インフレ率に 与える影響」 日本経済研究所 月報 2025年6-7月号 - 木内登英
「円安・物価高の 推計連鎖は 続くか」 野村総合研究所 (2026年7月10日) - 日本銀行
「経済・物価情勢の 一次資料展望」 2026年7月 - 内閣府
「2025年度 一次資料日本経済レポート」 第2章第1節 (2026年2月) - 日本銀行
「経済・物価情勢の 一次資料展望」 2025年7月 BOX3 - 内閣府
「令和8年度 一次資料年次経済財政報告」 - 米財務省
「Macroeconomic 一次資料and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States」 (2026年7月) - 財務省
「財務大臣談話」 一次資料(2026年8月3日) - 財務省
「外国為替平衡操作の 一次資料実施状況」 - 財務省
「外国為替平衡操作の 一次資料実施状況」 (月次、 2026年8月28日) - ホワイトハウス「Joint Fact Sheet」
(2025年11月13日、 一次資料韓国との合意) - 日本貿易振興機構
「日米関税合意と 一次資料対日関税の 概要」 (2026年8月26日時点)
一次資料のライブラリ 「物価と家計」の
注1
関税率は、日本貿易振興機構の2026年8月26日時点の整理で、一般の品目が元の関税と合わせて12.5%(2026年7月24日から。元の関税が12.5%以上の品目はその率だけ)、自動車・同部品が15%(2025年9月16日から)。一般の品目は2025年8月の15%から下がってきた。
注2
ドル円は米連邦準備制度のニューヨーク正午の値。2025年4月2日149.98円、4月21日140.81円。2025年7月22日146.36円、7月23日146.55円。2025年6月30日144.17円、2026年9月25日157.18円。
注3
原田氏が出典に挙げた内閣府のモデル(2022年版)が示すのは、消費者物価指数ではなく、GDP統計の個人消費の物価(民間消費デフレータ)。10%の円安で1年目0.15%、2年目0.16%、3年目0.23%。資料は「研究者個人の責任」で書かれ、内閣府の見解ではないと断っている。
注4
財務省の月ごとの公表では、2026年7月30日から8月26日までの円買い介入は計15兆3,993億円。
記事番号 2026-10-05-01 誤りの指摘と訂正の記録

について


