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一次資料の最終確認 2026年10月20日

NOISEよくある受け取り方

MMTは、国はいくらでも借金できる理論

SIGNAL答え

MMTは、政府が使えるお金の限界を、税収や借金の残高からインフレに置き直した理論だ。限界は消していない。

根拠を見る出典訂正・更新

自分の国の通貨でお金を借りる国は、通貨を発行すれば、返せなくなることはない。だがMMT(現代貨幣理論)を唱える研究者自身は、国の支出の上限を、物価が上がり始める所に置いている。「国の借金は問題ない」という話からこの上限が抜けると、使いすぎた分は物価高として家計が払うことになる。

MMTの主張は、昔からある考え、MMTが組み替えた見方、その先の政策の判断の3つに分けられる。本当に争う論点は、3つ目の政策の判断にある。

STRUCTUREこの記事の構造

  1. 家計に近い見方

    税収と借金の範囲で使う

  2. MMT

    上限は物価。人と設備の余りで決まる

  3. 分かれ目

    インフレの手前で支出を止められるか

  4. 暮らし

    止め損ねた分は物価高で家計が払う

根拠を見る出典訂正・更新

限界はある。置き場所はインフレ

一言で国の支出の限界と言っても、その中身は2つに分かれる。お金が足りないという制約と、人や設備が足りないという制約だ。人も設備も余っていない所へお金を出し続けると、作る量は増えず、値段だけが上がる。これがインフレだ。

MMTの研究者は、人と設備の制約のほうを限界に置く。提唱者の1人ステファニー・ケルトン氏は2020年のインタビューで、「限界はインフレだ」と述べた⁠。「MMTを学んだ人なら、MMTが無制限の支出を唱えているとは言えない」とも語っている。⁠

ただ、「いくらでも借金できる」という受け取り方は、MMT自身の言い方が招いた面もある。MMTの教科書(2019年)は、通貨の発行者に「財政上の制約」が無いことを、最も重要な結論に挙げている。

MMTって結局なんだったの? 限界の置き場所を変えた話
写真:Kakidai/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

「インフレが限界」は昔からある

MMTを、経済学をひっくり返した新しい理論と見るのも、半分しか当たっていない。インフレを支出の限界と見る考えは、1930〜40年代の経済学者がすでに示していた⁠。主流派の経済学者グレゴリー・マンキュー氏も2020年の論文で、MMTの教科書のこの考えを主流派と同じだとした。⁠

MMTは、この限界を国の財政の真ん中に置き、税の見方を変えた。家計に近い見方では、税は国が使うお金を集める手段だ。MMTの研究者は、人手も設備も足りない時期にみんなの手元のお金を減らし、店の値段の上がりを抑える道具として税を見る。⁠

「インフレが限界」と「もっと出せる」は別

「インフレが限界」という考えと、「だから赤字をもっと増やせる」という判断は、別のものだ。考えから判断へ進むには、前提が2つ必要になる。1つ目は、人と設備の余りがどれだけあるかを測れること。2つ目は、インフレの手前で支出を止められることだ。

1つ目の前提は、MMTの研究者自身も難しいと認めている。MMTの教科書の著者の1人は2023年、限界にどれだけ近いかは測るのが難しく、「主観的な判断かもしれない」としている⁠。

2つ目の前提には、財政は決めて実行するまでに時間がかかる、という批判がある(パリー、2013年)。MMTの研究者は、決め直さなくても動く仕組みを前もって置けばよいと答える。ただ、この記事で挙げたMMTの研究者の論文やインタビューは、こうした仕組みが需要の行き過ぎを実際に止めた例を示していない。

コロナ後の物価高、財政で抑えられたか

コロナ後の米国は、2つ目の前提を確かめる例になる。米国の消費者物価は2022年6月、前年比9.1%と約40年ぶりの上がり方になった⁠。原因は、緩い財政と金融緩和などで強まった需要と、供給の制約の両方にあり⁠、このインフレだけでMMTの正否は決まらない。

MMTの研究者は、物価を抑える役割を財政の仕組みに持たせる。だが、米国で物価高を抑えるために使われた主な手段は、アメリカの中央銀行FRBの利上げだった。FRBは2022年3月から、誘導する短期の金利の目標(政策金利)を上げ続け、ほぼゼロから5%台にした⁠。利上げをしたことと、利上げで物価の上がり方がどれだけ鈍ったかは、別の問題だ⁠。⁠

日本の政府は、物価高に支出を増やす向きで応えた。ガソリンの補助は2022年1月に始まり、ガソリンの暫定税率が廃止された2025年12月31日まで、約4年続いた。物価が上がる時期に支出を増やすのは、財政で物価を抑える向きとは逆だ。日本がいま限界にどれだけ近いかも、1つ目の前提と同じく、測るのが難しい。

残る問いは、手前で止められるか

MMTは限界を消さず、1930〜40年代からあるインフレの限界を、国の財政を考える真ん中に置き直した。まだ答えが出ていないのは、物価が上がり始める手前で、支出と税を決める議会と政府が支出を止められるかだ。⁠

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注

  1. 注1Dissent 誌のインタビュー(2020年8月11日)。同じインタビューで、MMTを "replacing an artificial revenue constraint with a real inflation constraint"(国の収入という人為的な制約を、インフレという現実の制約に置き換えること)と言い表している。
  2. 注21930〜40年代の経済学者は、ケインズ(1936年の『一般理論』の「真のインフレ」)とラーナー(1943年の論文。ケルトン氏〔旧姓ベル〕の1999年の論文の引用による)。ケインズやラーナーの仕事に根があると強調してきたMMTの研究者は、トゥモワーニュ氏とレイ氏(2013年の論文)。
  3. 注3MMTの教科書の著者の1人ビル・ミッチェル氏の、2023年4月27日のブログ。
  4. 注4米労働統計局の発表では、9.1%は2022年6月までの12か月の上昇率で、1981年11月までの12か月以来の大きさ。
  5. 注5供給の制約がインフレに効いた割合は、研究によって3分の1から3分の2まで幅がある(ニューヨーク連銀の2023年の論文の整理)。
  6. 注6FRBの政策金利の誘導目標は、2022年3月の利上げの前が0〜0.25%、2023年7月の決定で5.25〜5.5%。
  7. 注7物価の上がり方が鈍った分のうち、利上げが効いた大きさを、供給の制約などほかの要因と分けて推計した数字は、この記事では扱っていない。

出典

一次資料7件・推計4件・意見3件

一次資料のライブラリ 「財政と金利」の資料をまとめて見る →

根拠を見る(照合した記述 15か所)公開前の事実確認では、最初の照合(29か所)のうち4か所で、出典と合わない所や言い過ぎが見つかり、公開までに直した。

記事の事実の記述と、出典の該当箇所を並べた。事実確認の記録(10月20日まで)から作っている。

  1. 題名「MMTって結局なんだったの? 限界の置き場所を変えた話」

    確認済みDissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)該当箇所:ケルトン氏の最初の答え

  2. 「自分の国の通貨でお金を借りる国は、通貨を発行すれば、返せなくなることはない。」

    確認済みN. Gregory Mankiw「A Skeptic's Guide to Modern Monetary Theory」NBER Working Paper 26650(2020年1月)該当箇所:p.2 の教科書の引用と p.7 の結論

  3. 「だがMMT(現代貨幣理論)を唱える研究者自身は、国の支出の上限を、物価が上がり始める所に置いている。」

    確認済みDissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)該当箇所:「The limit is inflation」の文

  4. 見出し「限界はある。置き場所はインフレ」

    確認済みDissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)該当箇所:「The limit is inflation」の文

  5. 「提唱者の1人ステファニー・ケルトン氏は2020年のインタビューで、「限界はインフレだ」と述べた。」注1「Dissent 誌のインタビュー(2020年8月11日)。同じインタビューで、MMTを "replacing an artif…」

    確認済みDissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)該当箇所:「The limit is inflation」の文

  6. 「「MMTを学んだ人なら、MMTが無制限の支出を唱えているとは言えない」とも語っている。」

    確認済みDissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)該当箇所:「unlimited spending」の文

  7. 「インフレを支出の限界と見る考えは、1930〜40年代の経済学者がすでに示していた。」注2「1930〜40年代の経済学者は、ケインズ(1936年の『一般理論』の「真のインフレ」)とラーナー(1943年の論文。」

    確認済みJohn Maynard Keynes「The General Theory of Employment, Interest and Money」第21章該当箇所:第21章の「true inflation」の文

  8. 「主流派の経済学者グレゴリー・マンキュー氏も2020年の論文で、MMTの教科書のこの考えを主流派と同じだとした。」

    確認済みN. Gregory Mankiw「A Skeptic's Guide to Modern Monetary Theory」NBER Working Paper 26650(2020年1月)該当箇所:p.4「Mainstream theories of inflation」の段

  9. 「MMTは、この限界を国の財政の真ん中に置き、税の見方を変えた。家計に近い見方では、税は国が使うお金を集める手段だ。」

    確認済みÉric Tymoigne, L. Randall Wray「Modern Money Theory 101: A Reply to Critics」Levy Economics Institute Working Paper No. 778(2013年11月)該当箇所:p.6 注5、p.7〜8、p.34

  10. 「MMTの研究者は、物価を抑える役割を財政の仕組みに持たせる。」

    確認済みÉric Tymoigne, L. Randall Wray「Modern Money Theory 101: A Reply to Critics」Levy Economics Institute Working Paper No. 778(2013年11月)該当箇所:p.19、p.34、p.44〜45

  11. 「米国で物価高を抑えるために使われた」「手段は、アメリカの中央銀行FRBの利上げだった。」

    確認済み米連邦準備制度理事会(FRB)発表(2022年3月16日)該当箇所:声明の第2・3段落米連邦準備制度理事会(FRB)発表(2023年7月26日)該当箇所:声明の第3・4段落

  12. 「MMTは限界を消さず、1930〜40年代からあるインフレの限界を、国の財政を考える真ん中に置き直した。」

    確認済みJohn Maynard Keynes「The General Theory of Employment, Interest and Money」第21章該当箇所:第21章の「true inflation」の文

  13. 構造図「家計に近い見方:税収と借金の範囲で使う」

    確認済みÉric Tymoigne, L. Randall Wray「Modern Money Theory 101: A Reply to Critics」Levy Economics Institute Working Paper No. 778(2013年11月)該当箇所:p.6 注5

  14. 構造図「MMT:上限は物価。人と設備の余りで決まる」

    確認済みBill Mitchell「A nation does not shift to an MMT regime」(2023年4月27日)該当箇所:「real resources」の文

  15. SIGNAL「MMTは、政府が使えるお金の限界を、税収や借金の残高からインフレに置き直した理論だ。限界は消していない。」

    確認済みDissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)該当箇所:最初の答えと「unlimited spending」の文

ここから先は推論です。筆者の判断で、出典との照合はしていません。

  1. 「国の借金は問題ない」

    推論筆者の判断(事実確認の⁠対象外)

出典の該当箇所まで示せる記述だけを載せている。誤りに気づいたらcontact@instrsignal.com へ。

なぜそう言える?

確認済みJohn Maynard Keynes「The General Theory of Employment, Interest and Money」第21章該当箇所:第21章の「true inflation」の文出典の一覧へ

確認済みN. Gregory Mankiw「A Skeptic's Guide to Modern Monetary Theory」NBER Working Paper 26650(2020年1月)該当箇所:p.4「Mainstream theories of inflation」の段出典の一覧へ

なぜそう言える?

確認済みJohn Maynard Keynes「The General Theory of Employment, Interest and Money」第21章該当箇所:第21章の「true inflation」の文出典の一覧へ

注1

Dissent 誌のインタビュー(2020年8月11日)。同じインタビューで、MMTを "replacing an artificial revenue constraint with a real inflation constraint"(国の収入という人為的な制約を、インフレという現実の制約に置き換えること)と言い表している。

Dissent Magazine「Monetary Myth-Busting: An Interview with Stephanie Kelton」(2020年8月11日)出典の一覧へ

注2

1930〜40年代の経済学者は、ケインズ(1936年の『一般理論』の「真のインフレ」)とラーナー(1943年の論文。ケルトン氏〔旧姓ベル〕の1999年の論文の引用による)。ケインズやラーナーの仕事に根があると強調してきたMMTの研究者は、トゥモワーニュ氏とレイ氏(2013年の論文)。

John Maynard Keynes「The General Theory of Employment, Interest and Money」第21章出典の一覧へ

注3

MMTの教科書の著者の1人ビル・ミッチェル氏の、2023年4月27日のブログ。

注4

米労働統計局の発表では、9.1%は2022年6月までの12か月の上昇率で、1981年11月までの12か月以来の大きさ。

注5

供給の制約がインフレに効いた割合は、研究によって3分の1から3分の2まで幅がある(ニューヨーク連銀の2023年の論文の整理)。

注6

FRBの政策金利の誘導目標は、2022年3月の利上げの前が0〜0.25%、2023年7月の決定で5.25〜5.5%。

注7

物価の上がり方が鈍った分のうち、利上げが効いた大きさを、供給の制約などほかの要因と分けて推計した数字は、この記事では扱っていない。

記事番号 2026-10-05-03 誤りの指摘と訂正の記録

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