筆者の経験と考え|約13分で読める

2026年9月、会田卓司氏と松本賢氏の共著『何が日本経済を壊したのか』(ダイヤモンド社)が出た。会田氏は政府のの構成員で、本の「はじめに」では、自分はこれまで「非主流の立場」だったと書いている。本は先生と若者の対話で進む。

本によれば、日本の30年の停滞の原因としてテレビや新聞でいちばん多く挙げられてきたのは、少子高齢化や人口の減少かもしれないという。本は人口だけでは説明しきれないとし、原因を会社のためこみと国の使い足りなさに求める。そのうえで、今こそ国がもっと借金して使うべきだと説く。財務省の審議会である()の資料も、人口だけを原因とはしていない。人口が減って国内の市場が伸びるという見込みが下がり、投資が伸びなかったと書く。では、本の言うとおり、国がもっと使えば日本は伸びるのか。

結論から言えば、伸びるかどうかは、手元の資料ではまだ決まらない。本の30年の説明は、2つの話でできている。会社がお金をためこんできたという事実と、それが停滞の原因だったという説明だ。事実のほうは、財政審や内閣府の資料にも同じことが書いてある。原因だったかは、資料の並びでは決まらない。今、何年も赤字を広げても物価は2%台で収まるかも決まらない。本の物価の推計は、輸入品の値段が上がらないとしたときの値だからだ。

30年の説明のうち、会社がためこんできたという所はかなりうなずけた。今もっと使えば伸びるかは、本の中ではまだ確かめられていない。 これからの物価が2%台で収まり、物価の分を除いた生産・賃金・会社の投資が本の見通しどおりに伸びれば、この見方は変わる。

先に断っておく。僕は財政について、国がもっとお金を使ってよいとする積極財政の考えに少し寄っている。だから、本にも財政審にも同じ問いと同じ確かめ方を当て、それぞれが自分で認めている弱みを落とさずに書く。Instr Signal の連載『「責任ある積極財政」を読む』では会田氏の資料を深く読み、財務省・財政審についても建議と研究者の論文・講演を同じように通して読んだ。ただ、財務省・財政審の考えを1冊で全部の問いに答える形にした本は、無料の資料には見当たらなかった。だから、読んだ資料の形はそろっていない。

本と財政審は、2つの点で同じことを言う。会社がお金をためすぎていること。国が使いすぎれば物価と金利が上がること。食い違うのは、次の問いへの答えだ。国が、会社のためこみを上回るほど借金して使い続けたら、物価だけでなく生産と賃金も伸びるのか。以下、うなずけた所を1つ、引っかかった所を3つ書き、どの点でも本と財政審に同じ問いを当てる。式や表は、会田氏の資料を読んだ連載『「責任ある積極財政」を読む』の各回で説明したので、出てきた所で案内する。

会社がためこんできたことは、財政審も内閣府も書いている

本の筋はこうだ。会社はバブル崩壊と1990年代後半の金融危機の後、借りて投資する側から、お金をためこむ側に回った。1990年代の終わりからは、使うより入るお金が多い状態が続いた。これを会社の黒字という。そのため家計に所得が回らず、需要が縮み、物価が下がり続けた、と本は言う。国の赤字は景気が悪くなって膨らんだが、会社の黒字を超えるほどではなかった、とも書く。

会社の黒字を国の赤字が超えたかを見るため、本は2つを足した数字を物差しにする。会社の黒字はプラス、国の赤字はマイナスで数える。国の赤字のほうが大きければ、足した数字はマイナスになる。マイナスが大きいほど、会社と国を合わせてお金を使っていることになる。仮に会社の黒字がGDPの5%、国の赤字が5%なら、足して0%。国の赤字が10%なら、足してマイナス5%だ。本はこの数字を「ネットの資金需要」と呼び、この30年はほぼ0%だったとする。

会社のためこみは、本だけが言っていることではない。財政審の2026年6月の建議(意見書)は、企業収益や内部留保が積み上がる一方で、賃金上昇や国内投資の拡大に必ずしも結びついてこなかったと書く。内閣府の2025年の年次経済財政報告は、ほかの主な先進国では会社のお金の出入りが長い目で見て釣り合っているのに、日本では1990年代後半から会社に入るお金が使うお金を上回る状態が続いているとし、これを「異質な状況」と呼ぶ。会社がお金をためこんできたことは、本だけでなく、財政審や内閣府の資料でも確かめられる。

僕は、国の赤字の裏で会社が黒字を続けてきたことに目を向けさせた点が、この本のいちばんの価値だと考える。国の赤字の裏側にある会社の黒字は、財政審や内閣府の資料でも確かめられるからだ。ただ、ためこみが停滞や物価の下落の原因だったのか、その結果だったのかは、確認した資料のどれも決めていない。

では、本はどこまで使えと言うのか。本は、国がいくらでも使っていいとは書いていない。会社と国を合わせた数字は、GDP比マイナス5%程度までとする。会社の投資が戻れば、国の赤字を減らす。会社の借り入れだけで大きく超えたら、増税と利上げで冷ます。コロナ期にマイナス15%まで広げた米英については「やりすぎだろうね」と書く。投資で作る力が増えるまでは、物価がやや高止まりするかもしれないとも認める。財政審の歯止めとの比べは第6回で扱った。

『何が日本経済を壊したのか』を読んで 企業がお金をためてきたのは資料と合う、「国がもっと使えば伸びる」はまだ確かめられていない
写真:Comessu/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

国の使い足りなさが停滞の原因だったかは、過去の数字では決まらない

ここから引っかかった所に入る。国が使い足りなかったかは、何を数えるかで答えが変わる。財政審の2019年6月の資料では、1995年から2015年に、政府の総支出はGDP比で6.0ポイント増え、27か国で3番目に大きい増え方だった。中身を見ると、社会保障が8.9ポイント増え、社会保障以外は2.9ポイント減った。国や地方の公共投資は、1995年度の47.9兆円から2012年度の24.6兆円へ約半分になり、その後は持ち直して2025年度は33.0兆円だった(内閣府の国民経済計算、名目)。

この減り方の読み方が分かれる。財政審の資料は、社会保障以外の減り方を「特段厳しいものであるとは言えない」と読む。本は、1995年の財政危機宣言、1997年の消費増税、2001年の(利払いを除いた収支)の目標を挙げ、政府の緊縮財政を停滞の主な原因とみる。ただ、緊縮財政だけが原因だとは書いていない。この30年、国は赤字を続け、会社はためたままだった。この同じ30年を、財政審の2022年11月の建議は、さまざまな財政措置を講じても成長につながらなかったと読む。本は、国の赤字が会社の黒字を超えられず、デフレを抜け出せずにが伸びなかったと読む。総支出は増え、公共投資は約半分になった。どちらを数えるかで、使い足りなかったかの答えが変わる。

国や地方の赤字が特に大きかった2009年と2020年は、物価の上がり分を含めた経済の伸び()がマイナスの年だった(日銀と内閣府の統計から編集部が計算)。景気が悪いと税収が減り給付が増えて、赤字は自然に膨らむ。本もそう書いている。

本の主張は、その赤字では足りなかった、もっと使っていれば伸びた、というものだ。起きなかったことは、年の数字を並べても確かめようがない。財政審の2022年11月の建議にも、同じことが当てはまる。建議は、30年のPB赤字が平均でGDP比マイナス4.6%と欧米の主な国より悪く、債務は1,000兆円を超えたのに、名目GDPは「ほぼ横ばい」だったと書く。そのうえで、国が多く使った財政運営は、長く続く成長につながっていないとする。こちらも、使わなかった場合と比べてどうだったかを確かめた資料は、確認した範囲では見当たらない。

コロナ期の読み方も分かれる。本は、国が70兆円規模の支出をして名目GDPが2年ほどで膨らんだことを「明確な証拠」とみる。輸入品が値上がりしたせいだという見方には、値上がりはきっかけにすぎないと答える。会社が値上がり分を超えて値上げでき、家計がそれを受け入れられたのは、給付で家計にお金が回っていたからだ、と読む。ただ同じ時期に、世界的な物価高と円安、経済の再開が重なった。この並びでは、給付の効き目をほかの理由と分けられない。物価の分を除いた実質の伸びが名目ほど大きくないことは、本も財政審も認めている(第4回・第7回)。

「マイナス5%なら物価は2%台」は、輸入品の値段が上がらないとしたときの推計だ

本は、会社と国を合わせた数字をGDP比マイナス5%程度に保てば、名目成長率は年3%程度、物価は2%程度で安定すると書く。これを「過去のデータ分析から導き出した数値」と呼ぶ。

同じ数字を示した会田氏の資料(日本成長戦略会議、2026年6月30日)の式は、会社と国を合わせた数字と輸入物価などで物価を説明する。式は1987年から2022年を円高の時期として区別していて、式を作るのに使った期間の大半がこの時期に入る。物価がほとんど上がらず、下がる時期も長かった。2.3%は、マイナス5%を入れ、円高の時期ではない(円高の時期を示す印を0)とし、輸入物価の伸び(過去3年の平均)を0%と置いたときの値だ。輸入物価(円ベース)は、2026年9月に前年同月より24.5%高かった(日銀、9月速報)。式の置き方(3年の平均)とは測り方が違うので、そのまま引き算はできない。

輸入物価が高い今について、本も書いている。今の物価高は需要の強さより、輸入品などの値上がりによる面が大きいと読み、作る力が増えるまでは物価が高止まりしうると認める。

2.3%を出した式が過去の物価の動きをどれだけ説明できるかを示す数(決定係数。1に近いほどよく説明できる)は0.66で、需要と作る力の差(需給ギャップ、第4回)を入れた別の式は0.85だ。ただ、この数は過去の動きに式が合うかを示すだけで、国の支出が物価を動かした原因を当てているかは示さない。

財務省・財政審に同じ問いを当てると、国の支出が物価をどれだけ上げるかの数字は、確認した資料では示されていない(第7回で確かめた)。本には条件つきでも数字があるが、確認した財務省・財政審の資料には、それに当たる数字が見当たらない。

僕は、物価がほとんど上がらなかった時期の数字で作った式が、輸入物価の高い今も同じように効くかは、まだ確かめられていないと考える。推計に使った期間の大半が、物価がほとんど上がらなかった時期だからだ。ただ、当てはまりの数だけでは、式が外れているとも言えない。

金利が成長率を上回ったときの税収の増え方は、本でも財務省の試算でも確かめられていない

財政審のいちばんの心配から書く。2026年6月の建議は、成長率が実効金利を上回る期間が当面続くと見込まれる一方で、1980年度からの約45年のうち32年度で、国と地方が借金に払った平均の金利(実効金利)が名目成長率を上回ったとし、成長率と金利の関係には大きな不確実性が伴うと書く。平均の金利が成長率を上回ると、借金の対GDP比は上がりやすい(第5回)。日銀が持つ国債は、2030年3月までに2024年6月より「おおよそ36~39%」減る見通しで、これからは日銀以外の買い手が要る。国が借金に払う利子(利払費)は、2027年度予算の要求の段階(概算要求)で16.6兆円と過去最大になった⁠(財務省)。

その32年度のうち19年度は、1991年度から2009年度まで続けて上回っていた(編集部の数え)。財政審自身が、名目GDPが「ほぼ横ばい」だったと書く時期と重なる。本を通して読んだ範囲では、この年の並びに触れた所は見当たらない。財政審は、金利と成長率の関係は先が見通しにくいと読む。

本の答えは3つある。成長に伴って金利が上がるなら、利払費は増えるが税収も増えているはずで、財政を悪くしない。日本の国債や円が一気に売られる「日本売り」は、簡単には起きない。今の円安の本当の原因は、日本が官と民で組む投資に遅れていることで、投資を進める国の通貨は強くなる。

僕は、3つとも筋は通っていると考える。ただ、どれも確かめた数字の無い見通しだ。どれくらいの確率で起きるか、どこを超えたら危ないかという線の数字は、本を通して読んだ範囲では示されていない。

財務省・財政審の資料にも欠けがある。財政審は備えを求めるが、財務省の利払費の試算には、税収の増え方が並べられていない(財務省「財政総論」2026年9月30日、確認した資料の範囲)。本は税収も増えると見通すが、確かめた数字は示していない。財務省は利払費の数字を出すが、税収の増え方を並べていない。

同じ問い 本の答え 財務省・財政審の答え 手元の資料で決まるか
会社はもうけをためこんできたか ためこみ、家計にお金が回らなかった 内部留保が積み上がり、賃金や投資に必ずしも結びつかなかった 決まる(どの資料も同じことを書く)
30年、国は使い足りなかったか 国の赤字が会社の黒字を超えず、使い足りなかった 拡張的な財政運営だった(PB赤字は欧米より大きい) 決まらない(何を数えるかで変わる)
会社のためこみを上回るほど使えば、生産と賃金も伸びるか 伸びる。会社と国を合わせてマイナス5%程度なら、名目3%・物価2%程度 伸びるとは限らない。物価への効き方の数字は確認した資料では示されていない 決まらない。これからの物価と実質の生産・賃金・投資で分かる
金利が成長率を上回ったら、財政は悪くなるか 成長に伴う金利上昇なら税収も増える(見通し) 上回る年度が長いと心配する。財務省の利払費の試算には税収の増え方が並んでいない 決まらない(本も財務省の利払費の試算も、利払いと税収を並べた数字を示していない)

過去の説明と今の処方は、分けて読む

会社がためこんできたことと、公共投資が1995年度から2012年度に約半分まで減ったこと(2025年度は33.0兆円まで持ち直した)は、資料で確かめられる。それが停滞の原因だったかは、資料の並びでは決まらない。今の処方が当たるかは、これからの物価と、物価の分を除いた生産・賃金・会社の投資の数字で確かめるしかない。

僕は、今の処方は物価がほとんど上がらなかった時代の経験に頼っていると考える。物価の式で見たとおり、推計に使った期間の大半が、物価がほとんど上がらなかった時期だからだ。物価も金利も上がり始めた今は、条件が変わった。本も物価の高止まりを認めていて、そこがいちばんの確かめどころになる。ただ、これからの・賃金・会社の投資が本の見通しどおりに伸びれば、この見方は外れる。

外れたときの手順は、本にも財政審にも片方ずつ欠けている。本は過熱したときの歯止めを書くが、使ったのに会社の投資が増えないときの見直しの基準は、本を読んだ範囲では見当たらない。確認した財政審の資料には、需要が足りないときにどこで支出に転じるかの基準が見当たらない(第6回)。

本の作りも、読むときに知っておきたい。会田氏は「はじめに」で、基本が分かれば30年の原因は誰の目にも明らかだと書く。ただ、ここまで見たとおり、資料の並びでは、緊縮財政が停滞の原因だったかは決まらない。本は、専門用語を避けるために問答の形にしたと書く。問い手は給料が上がらないことに不満を持つ20代の働き手で、ギリシャのような財政破綻や、名目GDPが膨らんだのは輸入物価のせいだという見方を口にするが、先生の答えにすぐ納得する。PB赤字の平均マイナス4.6%や32年度といった財政審の数字は、本を読んだ範囲では見当たらない。財政審の建議も、異なる意見は脚注に回している。本はあとがきで、唯一の正解だとは主張しないと書く。

僕は、この本は過去を見直す本として読む価値があると考える。会社がためこんできたことは、ほかの資料でも確かめられるからだ。ただ、今の処方まで本のとおりに受け取るには、まだ数字が足りない。

出典

一次資料のライブラリ 「財政と金利」の資料をまとめて見る →

財政制度等審議会

財務省に置かれた審議会。財務大臣の諮問に応じて、国の予算・決算・会計の制度などの重要事項を調べて話し合い、財務大臣に意見を述べる。

財務省設置法第6条・第7条第1項

日本成長戦略会議

内閣の日本成長戦略本部の下に置かれた会議。首相が議長、官房長官と担当大臣が副議長で、関係大臣と有識者で構成する。2025年11月4日の閣議で、本部の設置とともに説明された。

首相官邸「閣議及び閣僚懇談会議事録」(2025年11月4日、城内国務大臣の発言)

名目GDP

実際に市場で取り引きされている価格で計った国内総生産(GDP)。物価の上昇・下落の分を取り除いた実質GDPと違い、物価の動きの影響を受ける。

内閣府 経済社会総合研究所「名目値と実質値の違いは?」(国民経済計算 よくある質問)

名目成長率

名目経済成長率のこと。実際に市場で取り引きされている価格で表した増減率。物価の変動分を取り除いて表した実質成長率と違い、物価の動きを含む。

内閣府 経済社会総合研究所「企業行動に関するアンケート調査 用語の解説」(名目経済成長率(名目成長率))

実質GDP

ある年(参照年)からの物価の上昇・下落の分を取り除いて計った国内総生産(GDP)。実際に市場で取り引きされている価格で計る名目GDPと違い、インフレ・デフレによる物価の変動の影響を除いている。

内閣府 経済社会総合研究所「名目値と実質値の違いは?」(国民経済計算 よくある質問)

財政審

財政制度等審議会の略。財務省に置かれた審議会。財務大臣の諮問に応じて、国の予算・決算・会計の制度などの重要事項を調べて話し合い、財務大臣に意見を述べる。

財務省設置法第6条・第7条第1項

PB

基礎的財政収支(プライマリーバランス)のこと。税収・税外収入と、国債費(国債の元本の返済や利子の支払いに充てる費用など)を除いた歳出との収支。その時点の政策の経費を、その時点の税収などでどれだけまかなえているかを示す。

財務省「基礎的財政収支とは何ですか。何が分かりますか」(よくあるご質問)

記事番号 2026-10-27-01 誤りの指摘と訂正の記録

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